最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)555号 判決 1963年1月25日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人安部正一の上告理由第一点について。
論旨は、要するに、本件宅地買収処分は自作農創設特別措置法一五条のほかに同法三条の規定をも明示してなされたものであるから違法である、というのである。しかし、政府が自作農創設特別措置法三条の規定により買収する農地につき自作農となるべき者のために地主から宅地を買収するには、同法一五条二項の規定によるべきことはいうまでもないが、買収にあたりその根拠法条を明示することは、右処分の要件ではない。従つて、所論買収計画樹立通知書なる書面に本件宅地買収の根拠法条として、自作農創設特別措置法一五条のほかに同条三条の規定が併記されていたとしても、かかる一事によつて本件宅地買収処分が違法となることはない。
されば、論旨は、理由がない。
同第二点について。
論旨は、本件宅地買収計画に対し上告人より適法な訴願の提起があつたと主張し、そのことを前提として、原判決が本件宅地買収処分の効力を是認したことに審理不尽、採証法則違背の違法がある、と主張する。
しかし、原判決(その引用する第一審判決)の確定した事実によれば、上告人が本件宅地買収計画に対し千葉県農地委員会に訴願を提起するにあたり原処分庁たる松戸市農地委員会を経由しなかつたのであるが、右県農地委員会は上告人より直接郵送されてきた訴願書はその方式において欠くるところがあるとして補正すべき期限を指定し、これを還付したが、上告人はその欠缺の補正に応じなかつた、というのである。しかして、かかる場合関係行政庁は訴願の提起がなかつたものとして取り扱い得るものと解するのが相当である。
されば、原判決(その引用する第一審判決)が前記指定期限経過後被上告人知事によつてなされた本件宅地買収処分を有効と認めたことは正当であつて、その判断に所論の違法はなく、論旨は、その前提を欠き、採用し得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)